店内に古い着物や古道具などが並ぶ、長野市西後町の「R-DEPOT(アールデポ)」。

コワーキングスペースやカフェなどがあり、若い世代を中心に多様な人が立ち寄る施設です。
1階は長野市内や北信エリアの空き家から集められた生活雑貨などを販売する古道具ショップになっています。

展示「ネオ民藝」は、墨一色で描かれた作品を複数の施設から集めてR-DEPOTで行われました。
ネオ民藝の企画者であり、15ほどの施設と関わりながら障がいのある人の表現をサポートしている、ささきりょうたさんに話を聞きました。

参加アーティストは、アートカフェcoco(長野)の宮島優衣乃さん、中村陽一朗さん、宮本尚幸さん、アトリエもく(群馬)の黒岩俊一さん、なかんじょアートミーティング(群馬)の阿部創磨さん、麦わら屋(群馬)の森雄祐さんの6人。
ささきさんは昨年、前橋市にあるリノベーションされた古い倉庫を会場に、障がいのある方の作品を集めた展示企画「ネオンプリミティブ」を個人で開催しました。
この時はBGMを流し、電気を通してネオン管をぶら下げ、施設ではなかなかできないことを実験的に試みたそうです。
ささきさんは今年初めて「対話アート」に参加。
展示場所を探す中で、いろいろな人がやってくる街なかの「ハブ」のような存在になっているR-DEPOTを会場に決めました。

「R-DEPOTは、カテゴリーに関係なく『おもしろい』とか『好き』という感覚で判断しそうな人たちが集まりそうな場所だなと。そういう人たちが、障がいのある人たちのアートをどういう風に見るのか興味がありました。施設を会場にすると関係者しか見に来ないことが多いので、絵を窓口にして社会とコミットするのであれば、施設と切り離したところで企画した方が良いのではないかと考えていました。そこで企画したのが昨年の『ネオンプリミティブ』です。今回もその実験の続きと捉えています」

障がいのある方の表現も民藝も、第三者が「いいよね」「かっこいいよね」と価値を見出し、カテゴライズされているという点で親和性が高いこと、メインの作品のモチーフが柳宗理のカトラリーやコレクションであること、古道具も民藝と立ち位置が似ていることから今回の企画を考えたそうです。

「墨」というと文字を思い浮かべる人が多いと思いますが、中村さんが描いた「イス」「つくえ」「鍋」「急須」などや、宮島さんの「Tシャツ」「シャツ」「ダウンジャケット」など、絵の作品も多く展示されました。

「キャプションを付けると『つくえ』『イス』といった言葉になりますが、『そういう切り取り方があるのね』という、普段僕たちが見ているのとは違う切り口が見えてくるきっかけになり得ます。それがすごく新鮮で、僕はそこを楽しんでいます」

絵の作品だけでなく、例えばジョン・レノンの「Imagine」の歌詞を見てトレースしたものなど、文字の作品もあります。私たちは「文字」という認識で見ますが、作者にとっては「形」であり、絵なのかもしれません。そう考えると、私たちが当たり前のように見ていたものが違った見え方になってきます。
普段は、墨の作品が各施設で展示されることはほとんどないそうです。
というのも、施設単体での展示だとみんなが平等な点数を出品するため、一人が一度に7枚を展示するといったことがほとんどできないからです。

「施設を飛び出し、全く違う場所で横断的に作品を並べることで、私が展示の意図をうたわなくても、何らかの文脈が見えてくる人には見えてくる。ホワイトキューブではなく、こうした古道具の並ぶ空間での展示で、障がいの有る無しは関係なくなっていくのではないでしょうか」
墨の作品以外にも、群馬県中之条町で開かれている「なかんじょアートミーティング」で阿部さんが描いた走り書きの看板も展示。
「看板を描いては温泉やトイレなど、さまざまな部屋の入り口に貼っていく、その行為がおもしろいなと。そういうものも紹介したかった」とささきさん。

また、前橋市の麦わら屋の森さんによる紙粘土で作った立体作品は、とても小さなものまで一つ一つに形と色のおもしろさがありました。

ささきさんは作品に値段を付けるのが好きだそうで、今回も全て値段を付けて展示しました。
値段がついていないと、自分で買おうというアクションにはつながりませんが、値段がついていて買えそうであれば、自分の家のどこに飾ろうかなとか考える。
自分の生活に対して近い距離感で作品を見ることができるようになります。
「僕らがやるべきことは、もとから興味を持っている人にアピールすることよりも、全く知らなかった、興味のなかった人たちに向けて大きく間口を広げることの方が大事だと思っています。心して見てほしいとは思っていません。ふらっと来て見てもらえたらいい。その方がおもしろいと思います」
店舗情報
R-DEPO
住所:〒380-0845 長野県長野市西後町610-12
URL: https://r-depot.com/
連絡先:026-219-2280
メール:info{at}r-depot.com
Instagram:rdepot2021
Facebook:R-DEPOT
ライティング:まついあきこ