2022年11月19日(土)、20日(日)に開催されたナナイロ会議の内容をダイジェストレポートします。
若者世代セッション
「義足ってずるい」と思いますか?(池田樹生さん)
ドイツの義足のジャンパーで、マルクスレームという選手がいます。
彼はオリンピックの金メダル選手を超える記録を出して、健常者と同じ大会に出ることを希望しましたが、競技用の義足が優位に働いているから出場を認めることはできないと言われ、オリンピック出場の夢はいまも叶わないままです。
スポーツの世界においても、平等ってなんだろう? 公平性ってなんだろう?と考えさせられるような現状が起きています。
みなさんは「義足ってずるい」と思いますか?
この問いに正解はありません。
でも知ること、立ち止まって考えること、意見を交わすことはとても大事だと思うんです。
池田樹生さん
世界パラ陸上競技選手権日本代表(2017年)
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社所属
義足と義手を装着し、パラ陸上競技にて100mと走り幅跳びを専門に活躍。“誰もが走れる社会づくり”を目指し、アジア圏における安価な義足の普及に取り組む。また、自身の姿を通して子どもたちにダイバーシティなマインドを学んで欲しいと願い、講演会なども積極的に行っている。
「多数派か少数派か」は、いいか悪いかじゃない(高橋知音さん)
日本の大学における障がいのある学生の割合は、ある調査によると約1.26%なんだそうです。
私が勤める信州大学には約1万人の学生がいますから、障がいのある学生が100人以上いることになります。
では海外はどうか。
最新の調査によれば、アメリカは20%近いというデータがあります。
「多数派か少数派か」は、いいか悪いかじゃない。
数が多いか少ないか。
それって相対的なものだと思うんです。
場によって、時代や文化によって、年代によって何が多数派かというのは変化します。
いろんな人がいることを前提とする社会が、みんなが居心地のいい社会なのではないでしょうか。
高橋知音さん
信州大学教育学部 教授
臨床心理士・学校心理士・特別支援教育スーパーバイザー。専門は教育心理学・臨床心理学で、主に、“多様な学生が大学で学びやすくするために何ができるか”についての研究に取り組んでいる。長野県発達障がい者支援対策協議会では、「連携・支援部会」の部会長を務める。
働く世代セッション
次の学びへ繋ぐ場としてのフリースクールを創っていきたい(市川寛さん)
フリースクールというと、不登校の子や発達障がいのある子の居場所というイメージをもつ人が多いのですが、実際はそれだけでなく、あそんだり作ったり、勉強したり、いろんな人と関わっていく場所にもなりうる場。次の学びへ繋ぐ場としてのフリースクールを創っていきたいと思っています。
たまたま学校にコミットしない子が全国に20万人以上います。
学校にネガティブな気持ちをもっている子、我慢して通っている子も含めればそれ以上で、彼らが堂々と行ける場所、やりたいこととあわせて学びが深まる場所、並べられて評価されない場所、多様な場所がいっぱいできるといいなと思います。
市川寛さん
寺子屋TANQ代表
学校教員職を経て、「“一人も見捨てない”実社会を実現させるためのピースとして、自由な学びの場を創りたい」という思いを強くし、フリースクールを創設。長野県不登校児童生徒等の学びの継続支援に関する懇談会構成員。
日本に帰って自分にとっての当たり前がそうではないことに気づかされた(岡勇樹さん)
僕は子どもの頃サンフランシスコで過ごして、日本に帰って自分にとっての当たり前がそうではないことに気づかされました。
差別や嫌な思いもたくさん経験して、“多様性”というものを体感した実感がないというか、あまり信じられないようなところがあるんです。
僕はDJをやっていて、年齢や性別、見える見えないとかかかわらず、ただそこにいる人たちが音楽を浴びている状態が“多様性”の1つなのかなと感じてはいます。
それは多様な空間を生み出すためにやってるわけではなくて、音楽に元々その力があって自然にそういう状態になるのが好きなんですよね。
それが僕の中での多様性。
岡勇樹さん
NPO法人Ubdobe代表理事
株式会社デジリハ代表取締役
合同会社ONE ON ONE代表社員
幼少期の8年間をサンフランシスコで過ごす。家族の病気や死がきっかけとなり、高齢者介護・障がい児支援の仕事に従事。現在は医療福祉がテーマのクラブイベント事業・居宅介護や移動支援などの福祉事業・デジタルアート型リハビリコンテンツ事業・福祉留学事業・レコード店などを展開。
シニア世代セッション
選択肢を選べる社会が、誰もが生きやすい社会なのではないでしょうか?(瀧澤重人さん)
私自身、妻を亡くし、いまパートナーと結婚をしない通い婚をしていますが、客観的に関係を示す物がありません。
そういう場合に、救命医療や看取りといった緊急時にパートナーシップの宣誓があれば役立つんじゃないかというイメージがありました。
LGBTQ、内縁関係、事実婚や同棲・・・関係性にも多様性がありますよね。
フランスにはPACSという制度があります。
いわゆる法律婚以外のパートナーシップを制度化していて、それが同性間・異性間に認められているんです。
多様な世の中で、それぞれがいいと思う選択肢を選べる社会が、誰もが生きやすい社会なのではないでしょうか。
瀧澤重人さん
ディアパートナー行政書士事務所 代表
県職員として42年間勤務し、最後の2年間は公務員の兼業許可を受けて一般社団法人を設立。さまざまな事情で婚姻できない異性・同性準婚カップルのパートナーシップ宣誓認定を行う「ディアパートナー事業」に取り組み、「日経ソーシャルビジネスコンテスト」ファイナリストに選出される。
「認められていない」と感じるのはどういうこと?(山口政佳さん)
このメモは僕の頭の中の断片です。
考えるのが苦手な僕が、頭に浮かんだことを書き出したら考えをまとめやすかった経験をして、この手法にたどり着きました。
来る前に書いたものを広げてみますね。
始めに「山口政佳 47歳 ADHD」。
そして「多様性を認めあう」というお題について。
多様って違うということ。
みんな違うのは当たり前なのに、認められていないと感じるから「認めあおう」ってなる訳ですよね。
「認められていない」と感じるのはどういうこと?
そもそも認めなきゃだめなの?
僕にはよく分からないんです。
皆さんの考えを教えていただきたくて、今日ここに来ました。
山口政佳さん
グループホームここっち経営者
ピアカウンセラー
20代のときにADHDと診断され、いまは同じ「当事者」という立場で、障がいのある人の相談に応じるピアカウンセリングに携わっている。また、「自分も“利用者”として住みたいと思える楽しい場所を作りたい」という思いからグループホームを立ち上げ、運営に携わっている。
ワークショップ
続いてナナイロ会議の様子や、ファシリテーターを務めた小林未歩さんのコメントをお届けします。
「若者世代(10~20代)」
世代別に3回に分けて行われたナナイロ会議。そのうちの「若者世代」の会議ダイジェスト版です。
1.ピッチ
まず、高校生やゲストスピーカーによる発信からスタート。
エクセラン高等学校の生徒たちは対話アート展の取り組みについて発表。
松本県ヶ丘高等学校の中嶌桃和子さんが発信したテーマは、「多様な時代の中に生きる私達にとって、働くとは?」
ジェンダーの多様性について発信した三澤和さん(松本県ヶ丘高校)。
ゲストスピーカーの池田さん、高橋さんへの質問タイム。
日本の職場の働きづらい要因はなんだと思いますか?
2.アイスブレイク
会議の本題に入る前に、まずは参加者の緊張をほぐしてコミュニケーションを取りやすい場づくりを。
4マス自己紹介
「呼ばれたい名前」「地元の好きなもの」「好きなこと」「“当たり前”が通じなかったこと」の4項目についてそれぞれ記入し、グループ内でそれを各自発表しながら自己紹介。
推し対決!
「あなたは海派? 山派?」「みんなでわいわい作業したい派? 一人でもくもく作業したい派?」――自分が推すほうに集まり、推す理由をどちらが多く挙げられるかを競う。
ひと昔前の日本では、工場などでもくもくと作業する仕事が多く、みんなとわいわいするのが苦手な人も仕事ができていました。でも、いまそういう仕事がAIに変わっていったりして減ってきましたよね。~現代では、一人で作業する方が得意で、かつ人とコミュニケーションを取るのが苦手な方が、社会的コミュニケーション障がいというくくりで見られてしまうことがあるといった状況が起きています。「何が障がいか」というのは、社会の影響を大きく受けるもの。流動的なんです。
ファシリテーターの小林未歩さん。
3.ディスカッション
場全体が温まってきたところで、小林さんのお話も踏まえ、「学校や職場でやりづらい・働きづらいと感じること」について話し合いました。
話し合い後、グループごとに「現状として一番伝えたいこと」を発表して全体で共有。
4. 自分と向き合う
最後は、自分のことを知り、思っていることを言語化するワークシートに取り組みました。
多様性の中で、自分の特性や困っていることを伝え合える関係性、安心できる関係性をつくっていくツールとしてこういう方法があるんだということをみなさんに体感してもらいたいと思って、最後にこのワークシートをやっていただきました。
参加者の声
若者世代の参加者より
これまであまり自分の困っていることや悩みについて考えることがなかったけど、今日みなさんとの会話を通して、自分には本当は困っていることがある、悩みがあると感じられた。いつも「まあいいや」ですませていただけど、もっと自分に寄り添ってみようと思えた。
働く世代の参加者より
グループの中でいろいろな立場の方の話が聞けてよかったです。障がいやマイノリティーだけでなく、一人一人仕事も出身地も身を置く現状も違う人と話す。それも多様性の理解だと思いました。
シニア世代の参加者より
当初考えていたより広がりがあって、盛り上がった内容になりました。貴重なご縁を頂戴いたしました。
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