ナナイロでは障がい者アートの理解を深めていくために、海外7カ国(韓国・台湾・インド・スウェーデン・ドイツ・イギリス・アメリカ)の障がい者アートについてオンラインをベースにリサーチをしました。
今回は概要版として、リサーチデータをまとめた記事を作成いたします。
本資料は、現時点で入手可能な情報および限られた調査体制のもとで作成したものであり、その完全性や正確性を保証するものではありません。解釈には一定の主観が含まれる可能性があるため、本資料は参考情報としてご活用いただき、詳細については各国・各機関の一次情報をご確認ください。
詳細版については後日公開する予定です。
1.障がいに対する認識
障がいに対する社会の認識からは、強い宗教の影響は感じられませんでした。
韓国では儒教と仏教の影響が強いとみられました。それらの宗教に由来する正常な状態や理想像と、障がいを持つ人の状態が異なると見なされることに基づき、偏見が生じています。特に、仏教の転生(生まれ変わり)の観念から、障がいは「前世の行いの結果」であると見なされることが多く、その結果、障がいを持つ当事者自身に恥や罪の意識が向けられる傾向があるようです。
障がいに対する認識に影響を与えている考え
ですが、思想や障がいの解釈のモデル、特に”優生学”や”障がいの慈善モデル(悲劇化モデル)”と、それらの結果として生まれた”健常者優先主義”の考えが、健常者・障がいを持つ人双方の認識に影響し、それが社会構造にまで浸透していることが重大な問題であると感じています。
現在台湾では障がいに関する法制度が整っていますが、障がい者アートに関しては、「慈善モデル/悲劇化モデル」が顕著に見受けられました。これは障がいを「かわいそうだ」「哀れみの対象だ」と見なす考え方です。この考え方が根付いているため、障がいを持つ人々は問題解決の唯一の方法として慈善活動に頼らざるを得ない状況に追い込まれがちです。また、障がいを持つ人々の中にも、自らを哀れみの対象だと見なし、自立が難しい存在として周囲の期待に応じようとしてしまう影響も及ぼしています。
またアメリカは、19世紀後半、世界的に人気となった、人類は“望ましい特徴”を持つ子孫を生み出すべきであり、望ましくない特徴は滅するべきとする、疑似科学的な考えである優生学が生まれた国で、それ以降、障がいを持つ人の排除の歴史を持っています。
2. アート界における構造的排除と課題
世界的に障がい者アートの認識とそれに対する関心が高まっているとはいえ、アート界で障がいを持つアーティストの存在感の低さは深刻で、加えて差別(言い換えれば”健常者優先主義”)が存在するため、インフラ・経済面での支援がさらに必要な状況です。
またアート界では、インクルージョン(包摂)の意識が高まる一方で、その実行には課題があり、「形式主義と目的のねじれ」と表現できます。具体的には、高いレベルの作品を制作する障がいを持つアーティストは存在するものの、美術館やギャラリーが「配慮している」と見せるために、それらのごく少数の優秀なアーティストにのみスポットライトを当てるという形式主義が散見される」と主張する専門家もいます。これは、他の多くの障がいを持つアーティストの存在を無視し、「形だけ整えている」と感じる当事者もいるようです。
そのため、健常者が大多数を占めるアート界の”主流”が変わる必要性を訴える声もみられました。
3. 創作の動機に見られるずれ
アートの創作動機もまた、2つの極端な状況に分かれています:。それはアート作品を真に創作したいアーティストと経済的自立のためにアート作品を創作したいアーティスト。インドや台湾の事例では、アート活動の根源的な目的として経済的自立が優先される傾向があり、作品の芸術的な思考やこだわりよりも、「困難を乗り越えて頑張って作った」という制作過程の苦労が強調されがちです。
需要と供給の中で、障がい者による作品という商品を健常者は求めていること多く、アート的な価値で評価されているわけではないという現実が、課題のように感じました。
4. アートを深く追い求める環境整備
アートを高度で専門的な文化として位置づける傾向が強く、障がいのある人がアーティストとして認められることが難しいという問題も見受けられました。特にスウェーデンの芸術・音楽学校の校長の中には、「障がいとアートを組み合わせても高い芸術成果は期待できない」と考え、障がいのある子どもは特別支援学校で学ぶだけでよいのではないかと発言する事例も見られました。このような考え方から、障がいのある子が専門的なアート教育を受けにくい社会的・制度的な壁が存在していることが明らかです。
5.チームとしてのアート活動支援
障がいのある人のアート活動を支える主導的な組織が、状況改善に大きく貢献しています。ドイツのE U C R E Aは、「障がい者アート」という分類を設けず、アーティストが自ら自由に名乗れることを尊重しています。イギリスのD A Oは、障がいのある人のアートや文化への参加を支えるため、プログラムや部門づくりに取り組んでいます。またUnlimitedは、障がいに関連した作品をつくらなければならないとは言わず、本人が制作したい作品を尊重しています。
6. 感じたこと
障がいのある人のアートについては、「障がい者アート」という表現よりも「障がいを持つアーティスト」という言い方を重視すべきだと考えます。「障がい者アート」は「障がい」を題材にしているため、「アート」という文脈からは疎外されている状態です。障がいを持つアーティストが「アート」を通して、健常者が多数を占めている業界でアート活動ができることが望ましいと思います。
そのためには障がいのある人が、より多様な選択肢のアートを学べる、もしくは触れられる機会が提供されることが必要です。そして障がいのある人が自分の障がいに縛られずに、より自由に作品のテーマを選べる機会があれば、主流のアート界でも、障がいのある人の作品が増えていく可能性が高くなると感じました。
今後は、障がいのある人自身が主体となる組織が日本でも増えることが重要です。
まとめ
今回の調査で、法律や制度が整っても、人々の「心の奥にある偏見」や「形だけの平等」が壁になっていることがわかりました。 障害者アートを単なる「慈善活動」や「企業のイメージアップ」の道具にするのではなく、アーティスト一人ひとりの存在を認め、支援する土壌づくりが求められています。
関連画像一覧
以下に今回の調査対象国の参照記事で示された関連画像を各国別に紹介します。
韓国

毎年定期的にプロジェクトを募集し、12名のレジデントアーティストを選出し、「グッドモーニングスタジオ」



台湾



インド






スウェーデン

(1978年に行われた障がい者の権利運動を取り上げた新聞記事)




ドイツ





イギリス





アメリカ

(1977年4月22日にアメリカ合衆国保健福祉省の長官官房が位置する建物の入口で、座り込み抗議を行う障がい者の権利運動の活動家たちの写真)




(Carolyn Lazardの2021年制作された画面がチカチカする映画作品”Red”(赤色))


(2024年のAlex Dolores Salernoの作品“Fortress Gate (Gemütlichkeit)(要塞門(居心地いい(ドイツ語)))”)
リサーチ:Mai
概要版作成:ふみか
