長野県を拠点に活躍するアーティスト、カミジョウミカさんと塚田裕さんによるコラボレーションアートが制作されました。
アートを通じて対話するとは一体何だろう?お互いが模索しながら制作したのは、黄色を基調とした126個のキューブでした。
11月10日に開催されたキックオフイベントでは、ふたりが協力してキューブを積み上げていき、作品『グウゼン生のグウゼン』は完成となった。

今回のコラボレーションについて、完成した作品を前に話を伺いました。
コラボレーション作品『グウゼン生のグウゼン』ができるまで

――今回のコラボがきっかけて初めてお会いされたそうですが、お互いの作品についての印象はいかがでしたか?
塚田裕:最初にこの話をもらったときは、一緒にやっても作品同士が喧嘩しちゃって上手くいかないかもと思ったんですね。
なぜならカミジョウさんの絵はとても強いから。でもコラボの前に、カミジョウさんが佐久平で開催していた個展を見に行って、逆に一緒にやってみたいと思ったんです。
僕と真逆で自己主張の強い絵を描く人だと思っていたけど、細かいところまで書き込んで丁寧に仕上げている作品を目の当たりにして「彼女は人を喜ばせたくて作品を作っているんだな」と気づかされました。きっとサービス精神が旺盛なんですね。

カミジョウミカ:ありがとうございます。サービス精神が旺盛なのは確かにその通りです(笑)。
私は以前、塚田さんが『シンビズム3』で発表された作品をネットで見ていました。そのとき塚田さんは茅野で展示されていたんですけど、直接見に行けなかったのが残念で。
ネット越しでも伝わってくる個性と面白さがあったので、今回一緒に作品を作れることが本当に楽しみでした。8月の終わりに初めてお会いして、木枠でつくったボックスにシーツを巻き付けて立体作品を作っている、と教えてもらいました。
私は立体作品をほとんど作らないので、私の作品とミックスさせて対話し、見てくれる人たちが想像を掻き立てられるような楽しい作品になればいいな、と思いました。
真逆のタイプの2人、その違いが面白い!

――どのようなアプローチで制作を進めましたか?
塚田裕:最初に“対話”というテーマを聞いた時はピンと来なかったんです。
でも今の時代重要なテーマだなとは思いました。ただ僕とカミジョウさんでどんなふうに対話をするかが難しくて。
対話アートとしてライブペインティングを一緒にやるというのはとてもハードルが高いし…と悩んだ末に、シーツに互いの絵を重ねていくのはどうかと考えました。一往復だと対話にならないから、塚田→カミジョウ→塚田→カミジョウという順番で二往復することにしました。
シーツはゆうパックでカミジョウさんのご自宅に送り、描き終わったらまた返送してもらうという流れで進めました。送られてきたものを見てまた内省するのも、それはそれで絵描きらしいじゃないか、と思ったんです。

カミジョウミカ:最初にシーツが届いて広げてみたとき、びっくりしました。
普段使うようなサイズじゃなくて、本当に巨大だったんです。「これに描くのか…」って途方に暮れちゃって。
私の80cm四方の作業用テーブルでは広げられなくて、小さく折りたたんでクルクル回しながら描きました。でもやっているうちにだんだんコツが掴めてきて、早く描けるようになりましたね。

――おふたりの対話を経て生まれた作品ですが、制作中に意識していたことはありますか?
塚田裕:完成度を求めるよりも対話の方を重視して気楽にやろう、と思っていました。とはいえ最初にカミジョウさんから返ってきたシーツを見たとき「あ、対話しなきゃ…」ってまた考え込んじゃいましたけど(笑)。
カミジョウミカ:私は空間を埋めるのが好きなんですけど、塚田さんは空間そのものを大事にするタイプで、真逆なんですよ。でもその違いが面白いわけで、私は私の好きなようにやろう!と思って描き進めました。
塚田裕:誰かとつくることもこんなふうに作品を送り合うことも、全部が初めてのことで、振り返ってみれば偶然生まれたことばかりなんですよ。カミジョウさんが描いてくれた絵の上に絵を描くことだって偶然性ですよね。間違ってるかも?と思うこともあったけど…やっちゃいました(笑)。
カミジョウミカ:それで言うと、私の作品は半分以上が偶然性だから、ハードルの高さを感じなかったかもしれません。塚田さんから好きなようにやって、と言ってもらえたこともありがたかったです。
塚田裕:今日ふたりで組み立てて完成させましたけど、制作しているときは「ちょうどいいのが真ん中にきたらいいな〜」なんてことも考えずにシーツを切って木枠に貼り付けていったんです。だから成り行きに任せた部分はとても大きいですね。それが結果として面白い作品になったのでよかったです。
みんなと過ごした場所や、絵を描いていたあの瞬間自体が、すでにアートだった
――誰にも邪魔されないひとりの制作とは違って、他のアーティストとのコラボレーションはどのような感覚でしたか?
カミジョウミカ:ひとりの制作とコラボは全く別物で、着地点が全然違いますよね。コラボをするなら期間が決められている今回のようなイベントの方が考えるし、脳も動くし、ちょうどいいと思いました。お相手からアイデアをいただいてチャレンジの仕方も明確でありがたいです。
塚田裕:今回の場合、自分のやりやすいようにやるなら、カミジョウさんの絵を布に印刷し、その上に描いた方が合理的ではありました。
でもそれだと“生感”は失われてしまいます。生感をあえて消す手法もありますが、やっぱりしっかり描いた方がライブ感が出ていいんだなということに気づかせてもらいました。
――最後に、今回はボランティアスタッフとして松本市の通信制高校・むつみ高校の生徒さんや卒業生の方が参加されていました。一緒に作業してみていかがでしたか?
塚田裕:高校生と制作するなんて始めてで、自分にはないものが生まれるといいなという期待はあったのですが、皆さんに好きに描いてもらったシーツを作品に上手く活かしきれず、今回は断念せざるを得ませんでした。
もっと僕に経験があれば上手くいったのかもしれないですね。改めて、絵で対話する難しさを実感しているところです。

カミジョウミカ:皆さんとおしゃべりしながら好きな絵を描くことができて、とっても楽しかったです。例えそれが作品にならなかったとしても、皆さんと過ごした場所や、絵を描いていたあの瞬間自体が、すでにアートだったんだと思います。

信濃むつみ高等学校の皆さんからの感想
- このイベントに参加して絵を描くのが楽しいと感じました。今まで絵を描いたことなんてなかったのに家でも描いてみたりしています。2回目に行った目を閉じて描くというワークショップも楽しかったですね。完成した作品は、googleマップの上空写真みたいだなと思いました。
- 対話アートというテーマだったので、自分なりに考えて他の人が描くものと交差させてみようかなとか思ったけど、とても難しかったです。目を瞑って描いた偶然の線は、意図したものよりエネルギーを持っていると思いました。おふたりの作品づくりに携われてよかったです。
- 1日目のワークショップでは、自分の好きな絵だけを描いて、他の人と対話できなかったなと思っています。もし次があればもっと他の人と対話してみたいです。おふたりがキューブを組み立てている時が一番アートだなと感じました。とても面白かったです。
アーティスト紹介

カミジョウミカ
アーティスト
Instagram @mikka985
1976年生まれ。長野県在住。 19才の時に、入院していた病院の主治医や看護師、理学療法士の顔をデフォルメして描き始める。現在では、自宅でアクリルガッシュ・オイルパステルなどを使い、空想画・抽象画を描いている。また、パソコンを使って空想から生まれるキャラクターを描き、オリジナルグッズなども制作。自分の頭の中に浮かぶ「カラフルな空想と夢の世界」をテーマとし、創作し続けている。

塚田裕(Hiroshi Tsukada)
画家・インスタレーション
1966年、長野県に生まれ、1989年に和光大学人文学部芸術学科油彩専攻を卒業。現在、富士見町の信濃境にアトリエを構え、日々制作。作品は、アクリル絵の具による抽象画が主体で、中には縦横2mを超すような大作もある。
協力パートナー紹介

信濃むつみ高等学校
公式サイト:www.terra.ed.jp
信濃むつみ高等学校は長野県松本市南松本にある私立高校である。高等学校通信教育が行われており、他高校からの中退者も受け入れている。 単位修得にはレポート提出とスクーリングが課され、レポート提出はインターネットを通して行えるため遠方に住む生徒も多く在籍している。