松本市在住のサーカスアーティストである金井ケイスケさん。
フランスで現代サーカスカンパニーを立ち上げ世界35カ国で公演を行ってきました。
帰国後はTOKYO2020パラリンピック開会式の振付をはじめ、ワークショップの講師、パフォーマンスの演出・出演など日本全国で精力的に活動しています。対話アートに初参加した今回は『誰もが参加できるワークショップ』を掲げ、3回のワークショップを開催しました。
立ち止まるだけでも表現になる

1回目は11月3日に開催された松本市民祭で、サーカスの花形であるエアリアル体験会を実施。天候に恵まれたこの日、赤ちゃん連れや車いすの方も参加可能とあって、多くの人が参加を求めて行列をつくりました。
体験会のあとは金井さんらプロによるパフォーマンスが披露され、多くの観客たちは優雅で楽しいひとときに惜しみない拍手を送りました。
続く2回目、3回目のワークショップでは、ジャグリングやパントマイムなど、表現としてのスキルをレクチャーした後『歩いている人が突然止まったら空間がどう変わるか』をテーマに即興パフォーマンスを行いました。
参加者からは「自分は何もできないと思っていたけど、通行人の中でただ立ち止まるだけでもパフォーマンスになるということがわかって新鮮だった」「やるのも見るのも楽しかった」といった感想が寄せられ、参加者は新たな表現の可能性を感じていました。

世界を巡り気づいた「サーカスができること」

金井さんが「誰でもできるパフォーマンス」に着目するようになったきっかけは、ヨーロッパでの活動に遡ります。
「ツアーが中東やアフリカなどの紛争地に及ぶようになったとき、自分たちが呼ばれる意味を考えました。特に、かつてフランスやイギリスによって植民地化されていた国々では、白人中心の舞台表現に対して強い反発心がありました。でも、そんな中で唯一のアジア人だった僕の存在が、サーカスを見にくる一つのきっかけになっていると気づいたんです」
言葉が通じなくても、言葉のないサーカスで彩られた楽しい空間を目の当たりにすると、人々は心からサーカスを楽しむようになりました。その経験から「サーカスは人種や文化の違いを超えられる」と実感し、日本に帰国後はプロと一般の人が一緒に楽しめるサーカスを作りたいと思うようになったのです。
すべての人に表現の可能性がある

また金井さんは「病気や障がいがあることで、本人も周りも限界をつくってしまう」と指摘します。
「たとえば寝たきりで動けない人は何にもできないと決めつけられがちです。でも一緒にできそうなことって必ず何かしらあるものなんです」
手が動かなくてもお腹だったら動くかもしれない。意思疎通が取れなくても何らかの表現はきっとできる。そんなふうに誰かの可能性を引き出す金井さんの活動は、多くの人に新しい可能性を示し続けています。
キュレーター紹介

金井ケイスケ
JDS代表/サーカスアーティスト
世界35カ国での公演や、TOKYO2020パラリンピック開会式サーカス振付・閉会式出演など、多くの国際的舞台で活躍。現在はパフォーマンスの演出・出演、ワークショップの講師など日本全国で活動中。