対話アートNAGANO WEEK2024のハイライトとして、脳波を利用したインタラクティブなデジタルアートインスタレーションを実施しました。
「身体での表現に制限がある人でもデジタルを活用すれば、新しい表現が可能ではないか」
という発想のもと、音、映像、ハードウエアを組み合わせた制作を行うAtsushi Kobayashiさんと社会福祉法人アルプス福祉会のご協力のもと、ご利用者の窪田雄大さん、青木一恵さん、白井義範さんの3人に参加いただきました。
完成した作品は、期間中マツモトアートセンターの路面に面したギャラリーコーナーに設置され、昼と夜で異なる表情を見せる煌めきが道ゆく人を惹きつけました。

また、11月10日に行われたキックオフイベント当日は脳波を取り入れた光と映像のライブパフォーマンスを披露。訪れた観客を一瞬にして魅了し、イベントのハイライトとなりました。
音、映像、ハードウェアを組み合わせた制作を行うアーティスト、Atsushi Kobayashi

Atsushi Kobayashiさんはオーディオビジュアルライブへの主演やインスタレーションの展示など、国内外に活動の場を広げるアーティストです。
対話アート初参加となった今回は、マツモトアートセンターでインスタレーションの展示を、また11月10日に行われたキックオフイベントでライブパフォーマンスを披露しました。
ハリウッドで学んだテクノロジー

幼い頃からハリウッド映画に憧れていたKobayashiさん。スターウォーズのような世界を自分でつくり、多くの人に見てもらいたい——。そのために絵画教室に通い、大学ではコンピューターグラフィックを専攻しました。
その当時からKobayashiさんはデジタルアートのインスタレーションを発表していましたが、卒業後は映像制作会社に就職。そこで多くの映像制作に携わります。
しかし映画や映像はあくまで監督のもの。自分の個性よりも、作品のために映像をつくらなければなりません。
一方で、インスタレーションなら企画からアウトプットまでを自分でディレクションできる。そして、作品を発表すれば、観客の反応がダイレクトに返ってくる。その魅力に惹かれたKobayashiさんは、国内外を問わず、自身の作品をつくり続けていきました。
転機になったのは、アメリカ・ロサンゼルスでの経験だ、とKobayashiさん。
「そこではアートディレクションというより、技術的なことを求められていると感じました。クライアントは、あのワーナーブラザーズ。こうなったら、ここでしか学べないことをやろう、そんな気持ちでした」
脳波を取り入れたアート

対話アートに参加するきっかけは、2023年に神楽坂で実施された「Public Visual Exhibition」において、Kobayashiさんが展示していた脳波の動きでミラーボールを動かす立体作品を見て、ナナイロ代表の中山が声をかけたことから始まりました。
「対話アートの話を聞いたとき、とても興味深いイベントだなと思いました。父が東御出身ということもあり、長野には小さい頃からよく遊びに来ていたんです。自分が長野に縁があることも参加の決め手になりました。」
脳波は、Kobayashiさんの作品づくりにおいて重要なテーマの一つです。
脳波の持つ、同じ瞬間が二度と訪れないという特性を生かし、脳波を色や形に変換して作品に落とし込んでいるのです。
たとえば、リラックス時のα波を青、集中時のβ波を緑や黄色といったように視覚化し、観る人に新たな体験を提供。Kobayashiさんは「これらを理解した上で作品を観ると、さらに深く楽しめると思います」と説明しました。
三者三様の脳波が煌めく

脳波の収集にはヨガ用のバンドを使用し、パソコンと連動させて脳波を記録するシステムを自作。ヘッドバンドを額に着用して頂き、2分ほど脳波データを測定して記録します。そうすると以下の5種類の脳波が計測できます。
- α波 リラックス ⇒水色
- β波 集中 ⇒ピンク
- θ波 まどろみ ⇒緑
- δ波 睡眠 ⇒緑
- γ波 興奮、第六感 ⇒黄色
「今回はアートセラピストの方と協力し、障がいのある方の脳波を取らせてもらいました。ただ測定するだけでなく、その方が好きな音楽を流したり、香りを嗅いでもらったり、話しかけたりすることで、どのように変化するのかを観察しました。それぞれ三者三様で反応が異なるんです」
参加された方それぞれに、音楽を聴いている時、アロマオイルの匂いを嗅いだとき、話しかけた時の脳波をプログラミングで煌めきとして表現しました。

日常でケアされているご家族にとっても、ある程度予想しながら接していたことが、言葉をかけた時にどんな感情になっているのか、音楽を聴くとどのようにリラックスしているのか、脳波というデータで、それぞれの個性を改めて知ることができる機会になりました。
脳波だけでもその人のオリジナリティがありあらゆる感情を表現していることを知れたことは、デジタルを通してより新しい可能性が生まれつつあることが感じらました。
アーティスト紹介

小林 宏嗣/Atsushi Kobayashi
Creative Technologist
最新テクノロジーにフォーカスしたクリエイティブスタジオVT Pro Design(アメリカ・ロサンゼルス)のクリエイティブテクノロジストとして数々のイベント制作に従事する。アーティストとしてもオーディオビジュアルライブへの出演や、インスタレーションの展示など活動の幅を広げる。2019年および2022年にイタリアA’ Design Awardを受賞。2023年にはロボットアームを活用したインスタレーションGerminationがFestival X(UAE・ドバイ)のexhibitionにアジアから唯一の作品として選出された。
福祉施設紹介

社会福祉法人アルプス福祉会
〒399-0021 長野県松本市寿豊丘642-1
アルプス福祉会は、障害のある人々が人権を尊重され、かけがえのない人生の主人公として生き生きと暮らせる社会の実現を目指しています。地域社会と協力しながら、障害者支援活動や事業を展開しています。
参加いただいた皆さん

窪田雄大さん
今年からコムハウスの一員となった最年少のなかまです。人と関わる事が大好きで、職員とのおしゃべりに嬉しそうに笑う姿が見られます。コムハウスでは雑誌破り・紙すき等のお仕事に取り組み、特に雑誌破りは、力いっぱい雑誌を握り破いています。散策も好きで、行事でお出かけをする際は、声を出しながらニコニコと笑い、嬉しさ・楽しさを伝えてくれます。

青木一恵さん
ニコニコ笑顔が魅力の一恵さんです。定期的に髪の毛を染めたりする等おしゃれな一面もあります。気管切開をしており声を出す事は出来ませんが、その分、表情や視線で気持ちを伝えてくれます。手・指を動かしてお仕事や活動に参加する他、職員と一緒に毎年ダルマ制作を行っています。コムハウスのお出かけでスキー場に行き、ソリに挑戦する等アクティブな一面もあります。

白井義範さん
人と関わる事が大好きで、職員とお話ししたい時は声を出して呼ぶ姿が見られ、話しかけには手や頭を動かして答えてくれます。後から思い出して楽しむタイプのようで、音楽やレクリエーション等の療育活動中は無表情でも、活動が終わった後に、ニコニコと笑う姿が見られる事が多いです。ドラえもんが好きで、毎年新作の映画が出るたび、コムハウスのお出かけで観に行っています。