【ダイアログ・イン・ザ・ダーク】暗闇の中で生まれる対話

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ダイアログ・イン・ザ・ダークとは?

‘Dialog in the Dark’ exhibit simulates blindness

ダイアログ・イン・ザ・ダーク(Dialogue in the Dark)は、完全な暗闇の中で視覚以外の感覚と対話を通じて体験する、世界的に展開されている体験型プログラムです。

1988年、ドイツの哲学博士 アンドレアス・ハイネッケ(Andreas Heinecke) によって発案されました。現在では40カ国以上で実施され、これまでに800万人以上が体験してきました。

ハイネッケは、ナチス時代の歴史・差別・人間の尊厳という問題意識を背景に、

「人は知識ではなく、体験によって他者を理解する」

アンドレアス・ハイネッケ

という思想のもと、暗闇という極端な環境を“対話の装置”としてこのプログラムを設計しました。日本では一般社団法人 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが、ドイツ本部と日本唯一の専属ライセンス契約を結び、公式に運営・展開しています。

社会変革を目的とした体験型メディア

これは福祉プログラムではなく、最初から社会変革を目的とした体験型メディアとして構想されています。

純度100%の暗闇の中で体験者は

  • 健常障害
  • 強者弱者
  • 教える/教えられる

といった日常の非対称性が、一時的に反転します。

単なる疑似障害体験ではなく、暗闇という不確実な状況の中で、参加者は互いに声を掛け合い、助け合いながら進むことを余儀なくされます。そのプロセスを通じて、他者への想像力、言葉の重要性、そして「一緒に進む」という行為の意味が身体的に実感できる、対話が自然に生まれるプログラムです。

この記事では、ナナイロのメンバーでダイアログ・イン・ザ・ダークを体験してみたことをメンバーで話したことを、共有します。

暗闇体験での気づきと「想像」の限界

Challenging beliefs, mindsets and behaviour

やはり体験してみないと分からないことがあるなと思いました。

暗闇の中でコーヒーを注文するという場面があったのですが、自分の中でのコーヒーのイメージは「スターバックス」のようなものでした。自分の勝手なコーヒーのイメージがあったので、インスタントコーヒーが出てくることを想定していませんでした。

「インスタントはあまり飲めないからどうしようかな」と思うところから始まりましたが、実際に目が見えない人たちがお店に行った時、メニューを見ても完成形が想像できない状態で物が運ばれてくるというのは、自分が思っていたよりも「すごいチャレンジなこと」なんだなと感じました。

その日々のチャレンジを楽しむか、ネガティブに捉えるかで日常は変わるのだなと思いました。「チャレンジすることはちょっと怖いな」と思うところもありましたが、実際に体験して「あ、そう来たか!」というふうに楽しめたらいいな、というのが率直な感想です。

既知の情報を探す心理と、光への安堵感

人間は元々知っているものや見たことのあるものを、真っ暗な中でも探そうとしてしまうものです。

暗闇の中で左右を触ると壁があり、下の方に行くと砂利がありました。触ってみて「思ったより大きいな」「3〜4cmくらいの石だな」と感じたりして、手触りから自分の知っている形を想像して、「これなら危険じゃない」と安心しようとしていました。

すだれがかかっていたり、ボールを渡し合う時に流木のようなものが落ちていたりして、「これはどういう演出なのかな? 自然の中でやっている設定なのかな?」と考えたり、匂いなども関係しているのかななどと想像していました。

ですが、そうやって推測できるのは、元々その物を「知っている」からであり、「これなら知っている」という安心感があるからです。もし何も知らない状態でこの中に連れて行かれたら、流木(りゅうぼく)だなんて絶対思いませんし、全く分からない恐怖があると思います。「どういう感覚でこの中を日々生きているのかな」と考えてしまいました。

最後にドアが開いて光が入ってきた時、すごく安心したんです。「自分の知っている元の世界に戻った」という感覚で、涙が出そうになるほど「帰ってこられてよかった」と強く思いました。

「目の見える人が真っ暗闇で過ごすと、正気でいられるのは数十時間しかない」という話を聞いたことがあったのですが、自分が光を失ったら確かにそうなるなと思いました。

相手の立場になって伝えることの大切さ

見たことのない人に「色」の説明をするのは難しいことだと思いました。

「赤は情熱的な色」と言っても、「その情熱ってどういうこと?」「情熱は青っぽいんじゃないの?」といった認識のズレがあるかもしれません。それを言語化して相手に伝えることは大事だなと改めて思いました。

今までなら「こんな感じ」と画像を見せて済ませていたところを、言語化しなければ伝わらない状況になり、「語彙力を鍛えないといけない」「言葉で伝えるって難しい」と痛感しました。

「ここです」と言っても「ここってどこですか?」となりますし、「前に行きます」と言ってもみんなが同じ方向を向いているわけではありません。相手の立場になって言語化する必要性を強く感じました。

多様性とコミュニケーションコスト

視覚以外の感覚が使えていないことを実感しました。

特にチームで協力したり、「みんなで手をつないで行きましょう」といった場面が多く、他者への配慮や「この人にはこういう伝え方が必要だ」「この人はちょっと待ってあげよう」といった対応を普段よりも意識しました。

暗闇の中なので普段よりも圧倒的にコミュニケーションコストがかかりましたが、それをやることによって「みんなで前に進む」ことができました。

これこそが「多様性」なのだと感じます。お互いにできることを伝え合い、声を掛け合って、「みんなちゃんと渡れるかな」と考えながら進む。これは生産性や効率性とは違いますが、「みんなが行けるようにするにはどうしたらいいか」を考える視点は、多様性社会の一つの形が体感できた点だと思いました。

ソーシャルエンターテイメントの価値とその体験から見える日常

Hiroshima to host experiential show Peace in the Dark

やはり言葉で聞くよりも、体験して気づくことの方が深く伝わると感じました。

ワークショップや体験があると、言葉で「こうしなきゃいけない」と伝えるよりも、体感的に分かってもらう方が気づきが深いと思います。ただ、ああいう特殊な環境(完全な暗闇施設)を再現することは難しいと思いました。地方では別のやり方でいろんな人たちが体験できる機会を作っていくことが大事だと思いました。

正論ではなく、自然と内面化される体験

あるメンバーが語ってくれたことですが、高校時代に進路を迷っていた際、専門学校の見学で高齢者体験(視界が黄色くなるゴーグルや、関節が曲がりづらくなるギプスをつける体験)をしたことがあったそうです。その時のゴールは「だから介護士が必要だよね」という結論だったようです。

しかし、今回の暗闇体験から得たものは「視覚障がい者を助けてほしい」「支援したい人を増やしたい」という福祉的な結論だけではありませんでした。「自分から助けを求められる人になってほしい」とか「分かりやすく伝えるために何が必要か」といった、コミュニケーションの本質的な部分でした。

「福祉業界に興味を持って!」という目的だったり、「視覚障がい者は大変だ」という結論のワークショップではなく、それぞれの参加者が自分なりのポジティブな気づきを持ち帰れる点が良かったです。「日常で自分はこの感覚を使えていなかったな」とか「もっと自分のことを発信しないといけないな」といった、個人の気づきが得られました。

障がいへの理解そのものへのゴールを正解にする必要はないと感じました。

体験を通じて「こうしたら人を助けられる」「こうしたら生きやすい」といった発見ができる。それが、いわゆる「障がい者の気持ちを分かりましょう」とゴールが決められている従来のワークショップとの違いであり、素晴らしい点だと思います。

ナナイロの活動につなげる

今後の「ナナイロ」の活動としても、単に障がい者への理解を促すだけでなく、より体験を通して用意された答えに辿り着くというより、個々が持ち帰ることができるような、体験型の表現やワークショップの形を模索していきたいと思いました。

ナナイロでは対話型ワークショップの「ナナイロ会議」を実施してきましたが、より体験的なワークショップの構築を模索していきたいという思いを新たにしました。

世界では一人では生きていけないからこそ、誰かと協力する。その体験を通じて、学校や職場での多様性やインクルーシブをポジティブに受け入れられる、土壌を作っていくことができればと思います。

ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験する方法

ダイアログ・イン・ザ・ダークは以下のサイトから予約ができます。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

https://taiwanomori.dialogue.or.jp

アトレ竹芝シアター棟 1F
ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」
東京都港区海岸一丁目10番45号

ナナイロサポーターズ
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