【イベントレポート 】 「利用者主体」という支援のかたち——福祉現場から見える景色

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   支援する側が「これをしてください」と決めるのではなく、利用者自身が「やりたいこと」を決め、職員はその実現をサポートする。障がいのある人を「支援される存在」としてではなく、自らの意思で選び、挑戦する主体として捉える——そんな福祉のあり方があります。 この考え方を、実際の現場での経験から語ってくれたのが、田中侑未さんです。今回は「福祉現場から見える景色」をテーマにしたイベントで、田中さんに話を聞きました。介護福祉士として障がい者福祉施設に3年間勤務し、この夏からはデンマークへの留学を控える田中さん。自身の原点から、現場で感じたやりがいと葛藤、そしてこれから挑戦したいことまでを語っていただきました。

きっかけは、身近にいた兄の存在

会場の松本アートセンター
会場の松本アートセンター

会場の松本アートセンター入口 田中さんは長野県駒ヶ根市の出身。高校卒業後、松本の介護の専門学校で2年間学び、その後、いろいろな縁があって千葉県の障がい者施設で働くことになったといいます。 この道を選んだ理由を、田中さんはこう振り返ります。 「3つ上に兄がいて、今26歳なんですけど、重度の知的障害で自閉症をもっているんです。一番の理由は、その兄がいるというところなんです。兄がいることで、私も幼いころから障がいという存在が当たり前で、すごい身近な存在でした」 大きな転機になったのは、中学2年生のときに見たあるニュースだったといいます。 「朝のニュースで見た障がい者虐待のニュースが、自分の中ですごい衝撃的で。妹としての立場で関わってきた経験が、何かこの業界で役立てばいいなと思ったのがきっかけで、障がい者福祉で働こうと思いました。将来的には、自分で何か施設を作りたいなという風にも思うようになったんです」  

「利用者が決める」現場で感じたやりがいと葛藤

千葉県の施設で実際に働いてみて、田中さんはさまざまなギャップや葛藤を感じたといいます。田中さんが働いていた施設は、機織りや紙すき、刺繍、絵画、木工、レストランなど、多様な作業のなかから利用者自身が主体となって活動を選べる場所でした。 「一般的には、職員が『これをしてください』と決めて、それをやってもらうんですけど、そこの施設は職員が決めるんじゃなくて、利用者がやりたいことを決めて、職員は材料を提供したりサポートをする、という支援の仕方だったんです。それを見て、ここで働いて経験してみたいと思いました」 3年という短い期間ながら、やりがいを強く感じる瞬間もあったと話します。 「『ありがとう』と言われたらやりがいを感じたんですけど、それ以上に、今まで夢中になれる作業が見つからなかった利用者さんに対して、いろんな働きかけや支援を通して、その人が夢中になれるものや強みを活かせる姿を見たときに、一番やりがいを感じました」 一方で、難しさを感じる場面も少なくなかったといいます。 「人によっては正解が見つかることが多いんですけど、中にはなかなか見つからない利用者の方もいて。どれだけこちらが対策を練って試行錯誤しても、うまくはまらなかったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりすることがありました。どうしてあげることが正解なのか、この人にとって何が求められているのかを探るところが、難しいなと感じました」

 「自分の考え方は狭いのかもしれない」——退職とデンマーク留学の決断

当日の様子

3年間働くなかで、田中さんは自身の視野についてある思いを抱くようになったといいます。 「周りの方にも結構デンマークに行かれていたり、海外経験がある方が多くて、『海外ではこうだったよ』という話や日本との違いを聞いていくなかで、自分の考え方もたぶん偏っているんだろうな、すごい狭いものなんだろうなと感じるようになったんです」 その気づきが、退職とデンマーク留学という決断につながりました。 「デンマークの福祉や考え方、価値観に触れたいな、知りたいなと思って、それで退職してデンマークに行こうと決めました」

 「利用者の可能性を広げたい」——帰国後に挑戦したいこと

当日の参加者の様子

田中さんには、将来自分で施設を作りたいという夢があります。その夢を実現するために、デンマークでの経験が欠かせないと考えているといいます。   「施設を作るにあたって、今の自分の考え方だけじゃ広がらないし、可能性も広げられない、考え方も結構固執しちゃっているのかなと思ったんです。デンマークでいろんな価値観に触れることで、いろんな考え方が広がって、もっと利用者の才能を引き出したり、可能性を広げられるんじゃないかと思って、デンマークへの興味が強くなりました」 デンマークで特に触れたいのが、「インクルーシブ教育」だといいます。 「障がい者の人と健常者が一緒に、対等に過ごして同じものを学んでいくという教育があって、それを自分でも経験してみたいなと。なかなか日本ではそういう経験ができないなと感じてきたので、デンマークの日本とは180度違った考え方を、自分の中にも入れたいなと思ったのがきっかけです」  

田中さんの話からは、「支援する・される」という一方向の関係ではなく、利用者自身が主体となって選び、挑戦できる場をどうつくるか、という問いが浮かび上がってきます。自身の原点である兄の存在から、現場での試行錯誤、そして新しい経験を求めての一歩——その歩みは、これからの福祉のかたちを考えるうえでのひとつの手がかりになりそうです。 田中さんは今夏、デンマークへと旅立ちます。留学後にどんな景色を見て、何を持ち帰ってくるのか、今後の活動にも注目です。 イベント動画は以下をご覧ください。

 

ゲスト

田中侑未さん

介護福祉士 ナナイロサポーター

障害者福祉施設で3年間勤務し、利用者主体の支援や個々の強みを生かした支援について学ぶ。兄が自閉症であることをきっかけに障害者福祉に関心を持ち、将来は、一人ひとりの得意なことや好きなことを仕事や活動につなげられる施設の設立を目指している。今夏、デンマークへの留学を予定している。

のだ あゆ
WRITEN BY

のだ あゆ

食・農・福祉を軸に、人と人がつながる場づくりの実現を目指しています。現在ナナイロの他、社員食堂、整体、介護、市民農園で活動中。

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