長野県でグループホームを運営する山口政佳さんは、ADHD当事者でありながら事業を立ち上げた経営者です。十数の職歴、自己破産、制度への疑問——そうした経験をすべて包み隠さず話しながら、福祉の現場で「続けられる組織」をどうつくるかを語ってくれました。今回のナナイロ会議は、福祉に携わるひとが組織やチームについて考えるための、率直な対話の場になりました。
「お金のことを考えちゃいけない」という空気と、向き合う

山口さんが運営するグループホームは小規模で、利用者がひとり入院して売上が数割落ちるだけで、借金の返済が滞るほどの利益率が低い経営です。 「福祉って言うとなんかみんな綺麗じゃなきゃいけない、お金のこと考えちゃいけないみたいな空気があるけど、僕はむしろ言ってこうよって。継続するために絶対必要。」
3年に1回、「ガチャ」が起こる
介護保険の報酬改定は3年に1度あり、現場の経営を直撃します。 「3年に1回大きな制度改定があって、昨日までもらえてたお金がある日突然『じゃあ半分ね』ってなる。信じがたいことが、現実として起こる。3年に1回ガチャが起こる。」 変化し続ける制度への対応も含めて、お金のことが運営上の課題だと、山口さんはいいます。
モチベーションは、そんなに持てない
モチベーションを持ち続けることについて、山口さんは、独自の見方をしています。 「事前にナナイロから聞いていた『モチベーションを持ち続けるには?』というお題ですけど、僕はそんなにモチベーションを持てないなって思うんですよ。モチベーションは心身の状態と連動してて、単独であるものではない。」

モチベーションを持ち続けることについて、山口さんは、独自の見方をしています。 「事前にナナイロから聞いていた『モチベーションを持ち続けるには?』というお題ですけど、僕はそんなにモチベーションを持てないなって思うんですよ。モチベーションは心身の状態と連動してて、単独であるものではない。」
「手段」として働く人と、「目的」として働く人
スタッフの働く動機は、ひとりひとり異なります。 「働く動機ってみんなそれぞれじゃないですか。仕事は手段であって目的ではないっていう人の方が圧倒的に多い。福祉をやってて思うのは、飯を食うために働いてるよっていう人と、社会に資する何かがしたいっていう人、両方いる。」 スタッフが動機としている様々なものを会社として提供できれば、お互いにとってwinwinになる。働く理由と、会社が提供できるものが一致していれば、それが一番ハッピーな就労環境だと山口さんはいいます。逆に、スタッフ側の視点で考えると、自分が何を求めているのかをまず明確にして、その上で働く環境を選ぶことが、苦しくない働き方につながるのではないか、とも語られました。
常に自分を一番低く見積もって行動する

モチベーションを持ち続けるためのヒントは、以前山口さんが働いていた福祉サービス事業所の所長から教わった言葉の中にありました。 「一番ダメな時の自分がどうするかを基準にして行動する。利用者さんに何かを頼まれた時、調子のいい時だったら『いいよ』って言える。だけど調子の良くない時だったら『めんどくさいからやだよ』って思う。だとしたら、『今日はやらない』って正直に言うことが大事。モチベーションって自分でどうしようもないから、自分の調子を一番低く見積もった所を基準にして行動するように教わった。今でもそれが正しいかなと思う。」 調子の良い時に合わせてしまうと、いつか調子が悪い時に期待を裏切ることにもなりかねない。また、自分が所属する組織が提供するサービスレベルのハードルが上がり、他のスタッフにも同じ水準を求めることにつながってしまう。
善意を沢山持っている人は採用しない

採用の場面でも、同じ考えが活きているそうです。強い善意を持っている人、希望や理想を語る人はあえて雇わないようにしている、とも山口さんは話してくれました。ありがたい気持ちはあるけれど、その善意が職場の基準になってしまいがちだから、というのがその理由です。 「続けられる福祉」のために山口さんが大切にしていることは三つ。お金の話を避けないこと、スタッフが働く理由と会社が提供できるものを一致させること、そして無理をさせず、常に自分を一番低く見積もって行動することをお願いすること。リアルな現場の話を包み隠さず語ってくれたからこそ、参加者の心にしっかりと届く言葉でした。
イベント動画は以下をご覧ください。
ゲスト
山口 政佳さん
グループホームここっち経営者
ピアカウンセラー
20代のときにADHDと診断され、いまは同じ「当事者」という立場で、障がいのある人の相談に応じるピアカウンセリングに携わっている。また、「自分も“利用者”として住みたいと思える楽しい場所を作りたい」という思いからグループホームを立ち上げ、運営に携わっている。
著書
ADHDの僕がグループホームを作ったら、モヤモヤに包まれた――障害者×支援=福祉?
「発達障害のある者」という立場で生きてきた僕がグループホームの運営に携わるようになった。両方の立場になって世の中を見てみたら、前よりたくさん「わからないこと」にぶち当たるようになった。
一人の発達障害者が“支援者”という役割も担いながら感じている疑問や不安をもとに、「障害者の権利と義務」、「障害者の支援」、そして「当事者も支援者もハッピーなあり方」に対するおもいを語り、主治医が専門家の視点で向き合い応える。
山口 政佳さん
